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松山地方裁判所宇和島支部 昭和51年(ワ)56号 判決 1978年5月11日

原告 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 松本宏

同 大島博

被告 岩井元祐

右訴訟代理人弁護士 井上正実

同 東俊一

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金一四〇万円と、これに対する昭和五一年八月二九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、夕刊宇和島日々新聞に別紙記載の謝罪広告を別紙記載の内容で一回掲載せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第一項について仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  被告は、宇和島市議会議員であるが、昭和五一年五月七日、同市議会において、「甲野某なる者が二三本のさつきを白昼堂々と持ち去り、(中略)これは明らかに窃盗行為である。」旨発言し、翌八日付で議員活動報告第五号なるビラを発刊し、これに「この乱脈行政、横暴市会を許すな」と題し、「甲野某も指定されたつつじを掘るというのではなく好き勝手に掘っている。これは賠償ではなく窃盗行為である。」と記載し、同日ころ宇和島市内に多数配布した。

2  被告の右発言及びビラのなかでいう「甲野某」が原告を指すことは、被告の議会発言、及びビラの全内容、並びにその他の諸事情からみて明らかである。このため原告の名誉は著しく毀損されたが、これが被告の故意又は過失によることは明らかである。

3  原告は、昭和五一年四月九日、同市水道局柿本由房局長(以下「柿本局長」と略称する)の了解のもとに同市柿原の旧水源地に植えてあるつつじを一五本掘って帰ったものであって決して窃盗行為呼ばわりされるものではない。すなわち、宇和島市が同年二月中旬及び下旬の二回にわたって水道配管工事をするに際して原告が鯉を養殖している同市伊吹町字道免甲一二三番地所在の池沼通称大池の水を取り除く必要を生じ、このため鯉が逃げたり、その発育に障害が生じることが予想された。そこで同月一九日及び二〇日の二回にわたり原告宅で原告と水道局開発課坂崎秀雄係長との間で一回水を抜くたびに三〇万円宛合計六〇万円を補償として支払うという約束がなされた。ところが、予定どおり大池の水を二回抜いたにも拘らず宇和島市ないし同市水道局から右補償金額の支払いがないため、原告は同年三月三一日、同市議会議長室において椙山議長の仲介により柿本局長と話し合った結果つつじ二〇本(時価一〇万円相当)をもって右補償に充てることで双方了解ができた。原告がつつじを持ち帰ったのは、右了解にもとづくものである。

4  原告は、被告の前記市議会での発言及びビラの配布により多大の精神的損害を被った。すなわち、原告は町内での信用を失墜し、原告の娘は東京へ出て行かざるを得なくなり、さらに、原告の妻が経営するスナックや食堂で、原告は、客から前記つつじの窃盗行為の真相を尋ねられ不快な思いをしている。原告の右精神的損害を慰藉するには金一〇〇万円が相当である。

また、原告は、本件訴訟代理人らに本訴の提起を委任し、愛媛弁護士会報酬規定の範囲内で着手金二〇万円、報酬金二〇万円の合計四〇万円を支払うべく約束した。

5  よって、原告は、被告に対し金一四〇万円と、訴状送達の日の翌日である昭和五一年八月二九日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いと、請求の趣旨第二項の名誉回復処分を求める。

二、請求原因に対する認否

1  同1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は知らない。

4  同4の事実中、原告が本件訴訟代理人らに本訴の提起を委任したことは認めるが、その余の事実は知らない。

三、被告の主張

1  被告の本件議会発言及びビラでは単に「甲野某」ないし「甲野氏」というだけでその名前や住所まで特定してはないし、他にこれが原告を指すと推知させるような事情はなく、この点で行為の対象者が特定していないから原告の名誉を毀損したとはいえない。

2  (正当行為による違法性阻却)

本件議会発言やビラ配布は、被告が議員としての責務を果たすためになしたもので、かつその方法・態様においても必要・相当なものであるから、仮に原告の名誉を毀損したとしてもその違法性を阻却する。すなわち、被告は、水源地のつつじが持ち去られたという市民からの通報を受けた後現地調査に赴いたり、市職員、付近住民などから事情聴取を行うなど十分な調査をした。この結果原告が大池で飼っている鯉の被害補償ということで柿本局長が原告につつじを譲渡したということが判明した。しかし、同局長は原告の被ったという鯉の被害の有無、その金額などを確認してもいないし、同局長が原告に持ち帰ることを了承したつつじの本数及び原告が持ち帰ったつつじの本数は明確ではなく、かつ、同局長がこのような処分をなす権限を有するかどうかについても規程上重大な疑問があることが判った。そこで、原告は、このような不明朗な行政のあり方を正すべくつつじ持ち去り問題について議会で発言をした。その中で甲野某の行為は明らかに窃盗行為である旨発言したが、原告を推知させるような表現はできるだけ避けたし、発言全体の趣旨は同局長の責任追求を主眼とするもので、右窃盗行為なる発言も同局長の責任を明確にする措辞として使用したものである。のみならず、当時原告は同局長が了解したと判断される一〇本以上のつつじを持ち去った状況があり、かつ原告は、鯉の損害というけれどもその被害はまったくなかったと思われるのに宇和島市議会椙山大蔵議長の政治力を使って強引につつじ処分をさせたことなど窃盗行為と目されても仕方のない不明朗な面もあった。しかも被告の発言は、単につつじという市有財産の問題のみならず、水道行政ひいては市政全般のあり方にかかわる重大な問題に関するものである。

また、被告の本件議会発言後自民党議員は、協議会を開催し、被告の懲罰動議を確認し、懲罰委員会を設置した。同委員会は、被告から事情を聞こうともせず会議録もつくらず、党利党略による不当なものであった。そこで被告は、被告を支持する市民に事の真相を明らかにするため本件ビラを配布したが、その内容は、被告の調査結果と議会での質疑答弁をできるだけ正確・簡明に記載したものである。

3(一)  原告のつつじ持ち去り行為は、つつじという市有財産の処分の問題であって公共の利害に関する事実に該当するものであり、被告の議会発言及びビラ配布は、原告個人を攻撃する目的でなされたものではなくもっぱら市有財産処分の適正化を目的としてなされたものである。そして右議会発言及びビラの記載内容は、甲野某が柿本局長の了解を超えて二三本つつじを持ち去っていること、本件つつじは宇和島市市長がすでに新浄水場に移転することに決めていたものであり時価一万円以上のものやなかには三万円もするものもあり同局長には処分権限がないこと、同局長が了解したというつつじの本数は明らかでなく、原告が掘り上げる際職員に立会いもさせていないこと、同局長は水道工事に際し甲野某に被害を与えたというがその確認も評価もしていないこと、このような不明朗なつつじ処分は窃盗行為であり同局長はその幇助者あるいは共犯者であるといわなければならないというものであり、これらの事実の大要は前記のように真実であることの証明があったといえるから、本件議会発言及びビラの配布はいずれも刑法二三〇条ノ二の規定に則り違法性を阻却すべきものである。

(二) 仮に前記のように真実性の証明ができていないとしても、本件つつじ持ち去り問題について被告は必要にして十分な調査をなしているものであるから過失がないというべきである。

4  原告は、昭和五一年三月銃刀法違反で猟銃所持許可取消処分を受けこれが新聞によって報道されており、これらの事情をも考慮すれば仮に本件議会発言及びビラ配布がその名誉を毀損したとしてもいまだ原告に損害賠償請求権を発生させる程度のものではないというべきである。

四、被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張はいずれも否認ないし争う。

2  被告は、本件議会発言に及ぶまでの間、原告、柿本局長、椙山議長のいずれからもその間の事情を聴取していない。従って被告は確実な資料、根拠に基づいて本件議会発言及びビラの配布をしたとはいえない。

第三、証拠《省略》

理由

一、被告が宇和島市議会議員であり、原告主張の日時に、宇和島市議会で原告主張の内容の発言をし、また原告主張の日時に、議員活動報告第五号と題したビラに原告主張の内容の記事を記載し、宇和島市内に多数配布したことは当事者間に争いがない。

二、そこで、まず本件議会発言及びビラの内容が原告の名誉を毀損するものであるか否かについて判断する。

1  右争いのない事実や《証拠省略》によれば、被告の議会発言の内容は要旨次のとおりであったことが認められる。

柿本局長の乱脈経理については具体的な事実がある。甲野某なる者が四月一〇日ころ旧水源地のつつじ二三本を同局長の指示によるとして白昼堂々と持ち去った。これは明らかに窃盗行為であり、同局長はこの窃盗行為の幇助者であり共犯者である。水源地のつつじは水道事業の財産であり、新浄水場に植えかえられることに決まっているものであり、これを勝手に持ち去らす権限は同局長にはない。同局長は水道工事の被害による補償といいながら、被害額の確認をしていないし、原告に持ち去りを許したつつじの本数も一〇本というかと思うと一五本ともいい二転三転している。これは明らかに物品経理における乱脈そのものである。

さらに右争いのない事実や《証拠省略》によれば、本件ビラの内容は要旨次のとおりであったことが認められる。

柿本局長は甲野氏に水道工事で被害を与えた賠償としてつつじを渡したというが、助役にも知らさず、その数も一〇本から一五本に変わるなどでたらめ極まる乱脈ぶりである。そこで、私は議会で「同局長には市の財産であるつつじを勝手に処分する権限はない。また、これは賠償ではない。第一に賠償だといいながら被害額の確認さえしていない。第二に賠償にあてるつつじの数は二転三転して、つつじの評価もしていない。第三に甲野某も指定されたつつじを掘るというのではなく好き勝手に掘っている。これは賠償ではなく窃盗行為である。同局長は窃盗の幇助者である。このような乱脈行政は許せない。市長はどのように対処するのか。」という要旨の質問をした。この発言に対し田中信明議員ら一二名の議員の連署で懲罰動議が出された。しかし、懲罰にかけられるべきは乱脈行政を容認、擁護する自民党議員である。

2(一)  ところで被告は右認定のように、本件議会発言及びビラの中で単に「甲野某」、「甲野氏」というだけでその住所や名前まで特定してはいないので原告の名誉を毀損するものではないと主張する。しかし、《証拠省略》によれば、昭和五二年一〇月六日当時宇和島市内で甲野の姓を持つのは六戸、一九人にすぎないし、前認定の発言及びビラの内容からすれば原告を知る者にとり「甲野某」が原告を指すものであることは容易に知り得る場合であると認められるので、対象者の特定に欠けるところはないというべきである。

(二)  そして右「窃盗行為」という表現によって原告が刑法上の窃盗行為とはいえないとしても、少くともこれに等しい社会的に批難されるべき行為をしたとの印象を与えることは否定できないから、被告はこのような発言をし、あるいはこのような発言を記載したビラを配布することによって原告の名誉を毀損したというべきである。

三、そこで、次に本件議会発言が正当な議員活動としてその違法性を阻却するか否かについて判断する。

1  地方議会の議員の議会における発言が第三者の名誉を毀損したとしても、刑法二三〇条ノ二の規定に則って真実であることの証明があったとき、又は真実と信ずるについて相当な理由があったときは不法行為上の責任を免れるものというべきであるが、それ以外にも法令による正当な職務行為として違法性を阻却する場合があると解するのが相当である。そして、具体的な議会発言が法令による行為として違法性を阻却するか否かは、それが専ら住民の利害に関する事柄につき、その利益をはかる目的をもってなされたか、当該発言により保護される法益と行為の結果侵害されるべき法益の均衡の点を含め右目的を達するための手段、方法として相当と認められるかを検討したうえ、これらの諸事情を総合勘案して決すべきものである。

2  これを本件についてみるに、《証拠省略》を総合すれば次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(一)  宇和島市水道局は、昭和五〇年一〇月株式会社久保田鉄工に柿原浄水場から丸山配水場に至る配管敷設工事を請負わせ工事を施工させていたが、翌五一年二月ころ伊吹町字道免甲一二三番地所在の池沼、通称大池付近の工事をする際二回にわたって右大池の水を排出し水位を下げる必要を生じた。ところが、右大池では原告が数万匹の鯉を養殖していたので、工事担当の水道局開発課の坂崎秀雄係長は排水につき原告の承諾を得るため原告方に赴き交渉にあたった。しかし、原告は水位を下げることにより養殖中の鯉が逃げたり、発育不良魚が発生するおそれがあるから水位を一回下げるごとに三〇万円の補償金を支払うか、又は原告が所有する近隣の田を工事から生ずる廃土で埋めたてるかいずれかの方法をとるよう要求した。原告からこのような要求がある旨坂崎係長から報告を受けた柿本局長は、原告が確実な根拠もなくかつ不当に高額な要求をしていると判断し、職員に損害発生の可能性につき調査を命ずることもなく、これを無視する態度をとった。

原告は、その後水道局から何の連絡もなかったため知人である宇和島市議会の椙山大蔵議長に依頼して補償交渉を有利に解決しようと考え、同年三月三一日市議会議長室に同議長を訪れ、水道局に話しをつけてくれるよう依頼した。同議長は、柿本局長を議長室に呼び原告の要求を伝えたが、同局長は、原告の要求には明確な根拠もないし、その要求金額もあまりに高額であるから到底応じることはできないと拒否した。そこで原告は金銭的要求を撤回し、あらためて旧水源地のつつじをもらいうけたいと申出た。同局長は回答を留保しようとしたが、原告はどうしても当日中に解決してくれるようにと強引に要求し、椙山議長も早く解決した方がよいと助言した。そこで同局長はついに宇和島市水道局事務専決規程三条によりその専決として二〇本以内のつつじを原告に譲渡すると約束するに至った。同局長は、つつじ一本を四、〇〇〇円ないし五、〇〇〇円程度と評価し補償額は合計一〇万円以内であり、右専決規程で許された範囲内であると判断したものであるが、この評価が適正かどうかについては関係職員と協議するなどして確かめることはしなかった。また宇和島市水道局組織規程五条二項によれば市長が不在のときは局長が代決するとされており、当日市長は不在であったが、原告が早急に解決するよう強く要求した以外には特に当日市長に代わり原告につつじを譲渡することを決定しなければならない必要性緊急性はなかった。そして原告の被ったとされる鯉の損害の具体的な内容、その損害額、算定の根拠などについての十分な話し合いはなされず、また同局長は、この点について関係職員と協議したり、あるいは調査を命じたりもしなかった。また原告に譲渡するつつじの本数についても結局二〇本以内というのみで明確な約束はされないままになった。

そして同月末同局長は局長室に関係課長をあつめ、原告との間で前記のとおりつつじを譲渡することにした旨告げ決裁文書を作成させた。しかし現場担当の課長ら職員に原告につつじを引渡す際立会うよう指示しなかった。

(二)  原告は四月九日人夫数人とともにトラックで旧水源地に赴き現場職員末光梅晴の了解を得たうえでつつじを掘り始めた。末光梅晴は一〇本くらいは掘らせてもよいという連絡を受けていたので原告が一〇本くらい掘ったことを確認した時点で「もうやめんかな」と制止した。しかし原告は「まあ五、六本くらい掘っていくわい」といって掘り続け、結局一六本のつつじを掘り、掘る途中枝の折れた分一本を残し一五本を持ち帰った。

(三)  被告は、同月一六日市民から「水源地のつつじが盗られている」との連絡を受け、三浦助重市会議員とともに同日午前一〇時ころ旧水源地に赴き末光梅晴らから事情を聴取したが、原告が何本のつつじを持ち帰ったかについては明確な回答を得られなかった。そこで被告らは水源地内を見て廻ったところ同一日時ころ掘ったと思われる比較的新しいつつじの掘りあとが二三個あることが確認された。

被告らは、さらに同日一二時ころ田中助役に会ったが、同助役は「つつじがなくなっていることは聞いていない。つつじは新浄水場に移植することにきめているのでそんな筈はない。」と答えた。被告は、さらに同日午後一時ころ水道局労組の幹部から、ついで同月一七、一八日の両日水道局で七、八人の職員から「市の水道工事で大池の鯉に損害を与えたということで局長と椙山議長とが相談してつつじを賠償にあてた。鯉の損害は誰も確認してはいない。職員は誰もつつじを渡すことについて上司から指示を受けていない。」との話しを聞いた。また被告は数人のつつじの栽培家から水源地のつつじは一本三万円以上するものもある。」、「手入れをすれば一〇万円台になるものもある」との話しを聞いた。

(四)  このような事実の調査と共に関係諸法令、庁内の執務上の慣行等を検討した結果、被告は、柿本局長の本件つつじ処分には次のような違法な点があると判断した。

同局長は原告の被ったという損害の内容、その被害金額について調査する等して確認していない。かりに原告に損害が生じたとしてもその損害を賠償すべき者が水道局か工事を請負った株式会社久保田鉄工であるかの点については疑義があるのにこの点の検討をしていない。被害補償額の決定権者は市長であり水道局長ではないし、また市長が新浄水場に移植することを決めていたつつじについてこれを変更するような処分をすることは同局長にはできない。宇和島水道事業会計規程七一条、八二条では固定資産である本件つつじの撤去については管理者の決裁が必要とされているのに管理者たる市長の決裁を受けていないし、同規程に定める管理者への文書報告もしていない。また補償するについて関係職員との間で何ら協議もしていないし、職員につつじを引渡す際立会うよう指示していない。つつじを代物弁済に充てるにつきつつじの評価もしていないし、同局長が持ち帰ることを了承したつつじの本数が明確でない。

そこで被告はこのような不明朗な同局長の本件処分を議会で質そうと決意し、議会で本件発言をするに至ったものである。

3  以上認定事実からすると、柿本局長の本件処分について被告が違法と判断したすべての点が正当であったとするわけにはいかないが、質すべき多くの問題点があったことはすでに認定したところから明らかである。被告が議会発言をした動機、目的は、このような不明朗な処分をした同局長の行政姿勢を追求しようとしたもので、その動機、目的が正当であったことはいうまでもない。そして被告の内心において「窃盗行為」と発言した趣旨が原告自身の行為を非難したものではなく、本件処分が賠償という名に値しない不当なものであることを強調するための比喩であったことは以上検討したところから明らかであるし、外部的にも議会発言の冒頭で「柿本局長の乱脈経理については具体的事実がある」と前置きしていることや、「同局長の指示によるとしてつつじを持ち去った」という発言、その他議会発言の全体をみれば「窃盗行為」という発言が前記のような趣旨でなされているということを理解することも困難ではない。なお、被告の議会発言の中には、原告が同局長の了承した以上の本数のつつじを持ち去っているという趣旨もあるが、これも原告自身の行為を非難するものではなく、同局長が原告に譲渡したつつじの本数が明確ではなく、かつ現場職員に立会いを命じてもいないなどその処分の不当性をいう一事情として述べられていることは明らかであるし、前記認定の被告調査事実からすれば、この点の被告の判断も一応首肯できる根拠はある。もっとも「窃盗行為」と比喩したことは誤解を生じやすく、その意味で原告の名誉を毀損することは前に説示したとおりであって、表現として妥当を欠く面があることは否めないが、本来疑問点を質すべき質疑としてなされた発言であり、その質すべき点をある程度強調して表現することも当然許されてよいし、その直後なされた柿本局長の答弁によって原告が同局長の了解を得てつつじを持ち帰ったものであって、それが刑法上の窃盗行為に該当しないことは一応明らかになったと認められること、被告は、「甲野某」といっているだけでこれが原告と推測させるような表現はできるだけ避けていると認められること、及び本件議会発言が宇和島市の市政のあり方に及ぼす影響の少なからぬものがあることを思えば法益の均衡の点を含め前記正当な目的を達するための手段方法としてなお相当な範囲に止まっているというべきである。

以上のように本件発言は、その目的において正当であり、かつ手段、方法においても相当と認められるから、地方議会の議員である被告の正当な職務行為として、違法性を阻却するというべきである。

四、最後に本件ビラの配布について違法性を阻却すべき事由があるか否かを検討する。

地方自治法一一五条一項により普通地方公共団体の議会の会議が公開されている以上、会議の内容を正確に報道するものであれば、かりに議員の発言が、従って又これを議会外に報道することが他人の名誉を毀損したとしても、違法性を阻却するものと解すべきところ、本件ビラの内容が原告の名誉を毀損するものであることは前に説示したが、前記認定事実によれば本件ビラの内容は被告の議会発言を文字どおりそのままではないが、その要旨を正確に記載していると認められるから右説示したところに従いその違法性を阻却するものというべきである。

五、以上の次第で本件議会発言及びビラの配布はいずれも原告に対する不法行為を構成するとはいえない。従って原告の本件請求はその余の事実について検討するまでもなく理由がないので失当として棄却し、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阿部功 裁判官 井上郁夫 裁判官高橋文仲は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 阿部功)

<以下省略>

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